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福岡高等裁判所 昭和36年(ツ)79号 判決 1961年12月21日

福岡相互銀行

理由

一、上告理由は「(一)原判決は、訴外嶋田朝治が上告人竝びに訴外阿河藤一を連帯保証人として昭和二十八年五月二日被上告人との間に手形取引約定を締結の上、訴外嶋田朝治は被上告人より金六万円也を借用したと認定したが、上告人はかかる事実を争い、右約定とは別個に、嶋田朝治は訴外阿河藤一、上告人及び訴外安武純を連帯保証人とし、昭和二十八年五月十六日被上告人との間に手形取引金銭消費貸借契約を締結したことはあるが、上告人の連帯保証は訴外安武純が保証することを条件とした保証であると主張したところ、原審は右前者の手形取引約定と後者の手形取引金銭消費貸借契約とは、同一債務に対する同一人の保証であつて、両者の間に同一性を欠くものではないと認められるので、上告人の主張は理由がないとの判決を下した。しかし、前者の約定と後者の契約とは、同一性ある債務でなく別個のものであることは、その日附等によつて明瞭であり、上告人は前者については保証したることなく、上告人の氏名捺印は全然上告人のものでなく偽造せられたものである。

従つて上告人は之れにつき保証義務がない。

(二)又後者の契約は、被上告人も承知の上訴外嶋田朝治との間に、安武純が連帯保証することを条件に、訴外阿河藤一と共に連帯保証したのであるが、被上告人において擅に安武純の氏名を抹消し、連帯保証より除外したので、同人の連帯保証を条件に連帯保証人となつた上告人の連帯保証義務は、同人が抹消除外せられたときに消滅しているのであつて、以上何れにしても保証義務がなく、従つて支払義務がないのである。

原判示のように前者後者が同一性ある債務であるとしても、以上の理由によつて上告人に保証義務がないことは明瞭である。

然るに原審が判示のような判決を下したことは、上告人の主張を無視したもので、憲法の主張権を無視した憲法違反であるので、何卒上告趣旨の御判決を賜り度く本理由書を提出したのである。」というのである。

二、原判決及びその引用する第一審判決並びに上告人が原審において、陳述した昭和三六年六月二〇日附準備書面によれば、被上告人は原審において「被上告人は上告人及び訴外阿河藤一両名の連帯根保証の下に、訴外嶋田朝治との間に、昭和二八年五月二日元本の極度額を三〇万円とする継続的手形取引契約(以下第一契約と書く)をなし、嶋田に対し三〇万円の手形貸付をなしたところ、六万円の債権が残存するので、連帯保証人である上告人に対しその支払を求める」と主張したのに対し、上告人は、(1)右根保証契約をなしたことを否認し、第一契約に基づく被上告人の嶋田に対する債権の存することを争い、(2)嶋田の被上告人に対し負担する六万円の債務について阿河藤一とともに、訴外安武純が連帯保証人となることを条件として、昭和二八年五月一六日連帯保証(以下第二保証と書く)をなし公正証書が作成されたことはあるが、安武純は公正証書を作成するにあたり、同証書作成のための委任状に一旦保証人として、上告人阿河藤一とともに連署したのに、安武純の署名が削除抹消されたので、上告人は第二保証についても責任がない旨主張したところ、原判決は、右(1)との関係において適法に証拠により嶋田は被上告人に対しその主張にかかる六万円の残債務を負担するので、上告人は連帯保証人としてその支払義務があると認定しているので、この点を論難する所論は上告適法の理由とはならないが、右(2)に関し原判決は、「(控訴人)は本件連帯保証契約締結の日時、右事実を証するために作成された書証等につき、そのくいちがいを云々して、被控訴人(被上告人)の本訴請求を抗争するが、被上告人主張の保証契約と上告人主張の保証契約とは、同一債務に対する同一人の保証であつて、両者の間に同一性を欠くものではないと認められるので、上告人の主張は理由がない。」と判断したにとどまり、第二保証が上告人主張のような条件の下になされ安武純の署名が抹消されたという事実から、保証債務が消滅したという上告人の抗弁に対しては、事実らんに摘示せず、また理由において明確な判断をなしていないことが認められる。

しかし原判決の確定した事実及びその言及する乙第一号証を上告人の主張と対照すれば、要するに、上告人は阿河藤一と共同して嶋田朝治が被上告人に対し負担することあるべき債務につき、昭和二八年五月二日元本極度額三〇万円の第一根保証契約をなしたことが認定された事実関係において、なおその外に第一契約の対象となる嶋田の被上告人に対し負担する六万円について、安武純、阿河藤一両名と共に共同して被上告人との間に更に同月一六日第二の連帯保証をなしたという場合において、上告人の第二保証は安武純が連帯保証をなすことを条件としてなされたときは、第二保証は第一契約を消滅させたというよりも、むしろこれを強化明確にしたと解すべきであり、本件において第一保証が不成立ないし失効したという格別の事情の主張立証はなく、乙第一号証によると、第二保証には安武純がとも角一旦連帯保証をなしているし、また上告人の弁論の全趣旨によれば上告人もこれを主張しているところであり、被上告人が乙第一号証の保証を証する書面における安武純の署名を削除抹消したという事実が同人に対する連帯保証免除の効果を生ずるとしても、そのことから直ちに上告人の被上告人に対する第一契約及び第二保証による連帯保証債務に消長をきたすものではない(昭和二八年五月一六日第二保証の成立により前示金六万円に関するかぎり、被上告人に対する関係においては、法律上一個の保証が存するに過ぎないと見たところで、民法第四五八条は同法第四三七条を準用するが、負担部分のない連帯保証について、負担部分のあることを規定する第四三七条は準用されない。)。もつとも被上告人が安武純の前示署名を抹消したということは、法律的には同訴外人連帯保証を過失によつて免除し、もつて人的担保を喪失したことになるとすれば、これがため上告人が安武純から求償を受くることのできない金額の限度において被上告人に対し保証の義務を免れる(民法第五〇四条)けれども、このことは上告人が原審において主張したとは認められないし、また、上告人の主張するところは、安武純は前記署名の抹消により終始連帯保証をしなかつたこととなるというのであれば、上告人のいうとおり第二の保証が成立しなかつたにとどまり、第一契約に基づく上告人の債務は依然存続する筋合であるので、いずれにしても、上告人は被上告人に対し連帯保証人として、嶋田朝治の負担する本件債務を弁済する義務があるので、上告人に原判決が前示(2)の上告人の抗弁に対する判断を遺脱したとしても、同抗弁は理由のない抗弁で、上告人は本訴の債務を弁済する義務があるので、これが支払を命じた原判決の終局の結論は相当であつて、所論は結局理由がないことに帰する。

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